6月のテーマ「蛍」を詠む
さくら貝
熊本県
重なりて落ちる蛍の闇深し
<黛まどか 選評>
ちょうど梅雨に入る前、蛍の成虫は恋の相手を求めて夜に飛び交います。強い光を明滅させながら飛ぶのが雄で、雌は草や木の葉の上で弱い光を放ちます。「重なりて落ちる」には、恋が成就したことが暗示されています。恋を得た蛍は深い闇へと落ちていきました。そして間もなくその命は尽きるのです。蛍の成虫の命は二週間程。雌は産卵から二、三日で死んでしまいます。恋の絶頂と共に深い闇へと落ちていく蛍。その様に、無常を感受した作者です。
カカオ
福岡県
飛び乗れば駆け落ちめきて蛍の夜
柿岡陽樹
東京都
雨止んで平家蛍の一ニ匹
- あまつさへ蛍湧きたる鞍馬かな(秋本哲/愛媛県)
- 縁側のふたりの黙へ夕蛍(磐田小/愛知県)
- 片恋のやうに蛍を見失ふ(柚子/大阪府)
- 川風をはらむ袂や初蛍(飯村祐知子/滋賀県)
- ねんごろに髪結ひ上げて蛍の夜(竹葉/東京都)
<黛まどか 総評>
蛍は昔から恋の象徴、無常の象徴として多くの詩歌に詠まれてきました。時代が移り、バーチャル世界やSNSが隆盛の今も、季節が巡ってくると、やはり日本人の心を捉えてやまない蛍。蛍の儚さとそれゆえの美しさ、亡き人を偲ぶこころ、川辺の情趣、幻想的で艶冶な世界などが描かれていて、日本人の中に一筋通った美意識と無常観を再発見しました。
今月の優秀句に選ばれたみなさまへ
優秀句(最優秀・優秀・入選)に選ばれた皆様には、京都にちなむ賞品を贈呈させていただくと共に、黛まどか主宰のオンライン句会にご招待させていただきます。以下のリンクよりご連絡先をお知らせください。
黛まどか主宰・オンライン句会
開催の予定
2021年9月