3月のテーマ「雛祭」を詠む
柚子
大阪府
しばらくは遠まなざしの雛かな
<黛まどか 選評>
年に一度箱から出されて雛壇に飾られる人形たち。しばらくは部屋にもこの世にも馴染めない様子が「遠まなざし」の一語に表現されています。「遠く」とは空間的なものであると同時に時間的なものでもあるのでしょう。それは私たちにとっても同じこと。飾ってしばらくは、雛の間は晴れがましくて落ち着きませんが、やがて久しぶりに帰ってきた家族のように、雛との距離感が縮まります。雛が「遠まなざし」で見ているのは、雛が生まれた頃の遥か昔の日本なのでしょう。雛をよく観察し、省略の効いた表現で、印象深い一句にしています。
さくら貝
熊本県
大水を救ひ出されし雛飾る
破れ蓮
東京都
仏にも明りを灯し雛の酒
- 箱を出で眩しさうなる雛(ひいな)かな(高橋すずめ/京都府)
- 雛の間を覗く帰宅のランドセル(渡辺輝夫/栃木県)
- 雛壇の紅たるる畳かな(ハードエッジ/東京都)
- いつの間に向ひ合はせの内裏雛(井伊辰也/日本国外)
- 雛壇にアンパンマンも座りをり(中島紀生/和歌山県 )
<黛まどか 総評>
雛そのものを詠んだ句はもちろんのこと、雛の間の華やぎや雛を囲んでの団欒の断片を丁寧にスケッチした秀句が多くありました。「雛の間を覗く…」「いつの間に…」「雛壇にアンパンマンも…」など、雛祭と言えば女子の行事ですが、「子」という言葉を直接使わずに、子供たちの気配を表現した句に感銘を受けました。また「大水を救ひ出されし雛」とは、豪雨で浸水した家から無事救い出された雛のことなのでしょう。まるで復興を象徴するかのような「雛」です。女子の幸運を祈って飾る雛ですが、雛を飾ることが出来ること自体が、幸せの証なのです。
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黛まどか主宰・オンライン句会
開催の予定
2021年7月